「子どもがイライラしているときに『おもいでばこ』をつけると、テレビに映る自分の写真に釘付けになって、不思議と落ち着きを取り戻した―」
あるユーザーのSNS投稿をきっかけに、私たちは「写真」と「子ども」の関係について、専門家を交えた座談会を開催しました。写真は子どもにどんな影響を与えるのか。研究データとリアルな体験から、その答えが見えてきました。
■座談会メンバー

城戸 楓氏(東京大学特任助教)
専門は「写真・アルバムが子育てに与える影響」の研究

青木 水理氏
(日本おひるねアート協会代表理事)
17歳、12歳、5歳の3児の母

根本 将幸
(バッファロー おもいでばこ 製品企画担当)
【研究からわかった!写真整理の意外な効果】
~写真を「見る」だけではダメ?アルバム作りの隠れた価値~
【研究からわかった!写真整理の意外な効果】
~写真を「見る」だけではダメ?
アルバム作りの隠れた価値~
――城戸先生の研究によれば、写真との関わり方によって、子どもの反応は大きく変わってくるといいます。

城戸先生:私たちは、写真を「撮る」「残す」「共有する」という3つの段階に注目して研究を行いました。特に興味深かったのが、アルバム作りの効果です。
実験では、2つのグループに分かれた子どもたちに、まったく知らない子どもの写真をそれぞれに見せて作業をしてもらいました。
・グループ①:写真を使ってアルバムを作成
・グループ②:写真を見て記憶するだけ
その後、全く知らない子どもの写真を見せ、続けて表示される単語への反応時間を測定(IATテスト:無意識の中での対象物への愛着や嫌悪を明らかにするテスト)を実施。すると興味深い結果が明らかになりました。
アルバムを作成したグループの子どもたちは、ポジティブな言葉により早く反応したんです。心理学上、先に表示された対象物に対する愛着が強いほど、ポジティブな言葉への反応が早くなることが知られています。この結果は、アルバム作りという行為自体が、写真に対する愛着を育むことを示唆しています。
【写真に物語を込める大切さ】
~アルバム作りで育まれる愛着~
【写真に物語を込める大切さ】
~アルバム作りで育まれる愛着~
――では、なぜアルバム作りには特別な効果があるのでしょうか。城戸先生は「物語性」というキーワードに着目しました。
城戸先生:「おもいでばこ」でアルバムを作る時、私たちは「その時どんなことがあったのか」を考えながら写真を選びます。この「物語を作る」という行為が重要なんです。実際の研究では、物語性のある(例:物語に沿って写真を並べる)アルバム作りと、単なる条件(例:赤い服を着た写真を並べる)でのアルバム作りを比較しましたが、物語性のあるアルバム作りをした場合のみ、写真への愛着が生まれることが判明しました。
自動でアルバムを生成するデジタルアルバムは便利ですが、それだけでは不十分かもしれません。写真を選び、整理し、物語を紡いでいく。その過程こそが、親子の愛着を深める重要な要素となっているんです。
根本:この点は、『おもいでばこ』の開発思想に通じる部分です。よく「スマホの写真が全部自動で入ったらいいのに」と言われますが、あえてそうはしていません。TVに映す写真を自分で選ぶ。その取捨選択の過程自体に大きな意味があるんです。
城戸先生:まさにその通り。その選択のプロセスこそが物語性を生み出し、「この写真の次にはこの写真が絶対必要」という流れを作り出すんです。

【意外と大切!?写真整理の「手間」の正体】
~社会学者が語る、省いてはいけない家族の時間~
【意外と大切!?写真整理の「手間」の正体】
~社会学者が語る、省いてはいけない家族の時間~
――「手間」という観点から見ると、現代の家族のあり方が見えてきます。城戸先生は社会学者オグバーンの家族縮小論を引用しながら、興味深い指摘をしました。
城戸先生:オグバーンは家族が担う7つの機能として「経済・地位付与・教育・保護・宗教・娯楽・愛情」を挙げていています。これらは近代化とともにほとんどが外注化されていきます。教育も、宗教も。最後に残るのが「愛情」です。例えば、「子どもが騒ぐから動画サイトを見せておこう」というのは、コミュニケーションの外注化。つまり、最後の愛情機能まで手放してしまっており、それは省いてはいけない手間だと考えます。「おもいでばこ」に家族で見返したい写真を集めて、それを見ながら家族で会話を楽しむ。一見「手間」に思えるその時間こそが、実は家族の本質的な機能を支えているのかもしれません。
根本:「おもいでばこ」の「おもいで散策」機能も、省いてはいけない「手間」という考え方にに通じる機能だと感じました。電子辞書と紙の辞書の違いのように、目的の写真だけでなく、周辺の写真も一緒に見える仕掛けを作りました。少し時間がかかる”時間泥棒”になればいいなと思って。
城戸先生:本の背表紙をながめて、どの本を見ようかなと散策している感覚ですね。

――また、この『手間』は子どもの育ち方にも影響を与えます。
【実際どうなの?3児の母が語る写真の効果】
~意外な気づきと子どもの変化~
【意外と大切!?写真整理の「手間」の正体】
~社会学者が語る、省いてはいけない家族の時間~
――理論的な話だけでなく、実際の家庭での効果も見逃せません。3人の子どもを育てながら年間5万組の親子と関わる青木さんは、興味深い観察を共有してくれました。
青木さん:子どもたちは、自分が知らない時期の写真をよく見たがります。「この時は何してたの?」「この人は誰?」と。自分がどう愛されて育ってきたのかを知りたがるんです。
私は「抱っこアルバム」というものを作っています。3人の子どもが生まれた時に、周りの人に抱っこしてもらっている写真を全部撮って1つのフォルダにまとめているんです。子どもが大きくなって「この人誰?」と聞いてくる。自分が多くの人に愛されて育ったということを、写真が教えてくれるんです。自分が生まれた頃のことは覚えていないはずなのに、今ではその時のことを自分の記憶のように話してくれます。

城戸先生:このエピソードは教育の本質にも通ずる部分がありますね。自分が直接体験していないことでも、共有を通じて自分のものとすることができる点に教育の本質はあります。その意味でも、写真を通じた体験の共有には大きな可能性があると考えています。
――青木さんの話で特に印象的だったのが、写真が少ない時期に気づいた子どもの変化です。
青木さん:あるご家庭のお話ですが、ある時期お子さんが写真を撮られるのを嫌がっていて、その時期の写真が少なかったと。それに子ども自身が気づいて、また写真に写ってくれるようになったそうです。写真を見ることで、客観的に自分を見られるようになったのかもしれません。
ほかにも、写真の時間を楽しみにしているご家庭では、早く準備を終えた子どもがリモコン係になれるというルールを設けているそうです。「何分までは写真を見る時間だよ」と決めて、家族の写真タイムにしている。まさに愛情機能を果たしているんですね。
【テレビ画面で写真を見ることの特別な意味】
~心理学者が注目する「非日常性」の効果~
【テレビ画面で写真を見ることの特別な意味】
~心理学者が注目する「非日常性」の効果~
――城戸先生は、テレビ画面で写真を見ることの特別な意味について、興味深い考察を示しました。
城戸先生:現代の子どもたちはSNSなどで、スマートフォンに自分が映ることには慣れています。しかし、テレビという「オールドメディア」は違います。そこに映ることは非日常的で特別な体験となるのです。
根本:TVにうつって、リモコンで操作したら自分が映画の主人公になったような気分になる。この感覚は、デジタルアルバムにはない『おもいでばこ』ならではの特長ですね。

【記憶の再構築と家族の物語】
~写真が培う子どもの自己肯定感~
【記憶の再構築と家族の物語】
~写真が培う子どもの自己肯定感~
――城戸先生は「記憶の再構築」という興味深い概念を説明してくれました。
城戸先生:私たちは現在にしか生きていません。過去の出来事は、再構築された記憶の中にしか存在しないのです。そのため、子どもに十分な愛情を注いできたとしても、それを伝える機会が減ってしまうと記憶は薄れてき「自分は愛されていなかった」という記憶に書き換わってしまうかもしれない。逆に、写真を通じて定期的に注がれた愛情を確認する時間があれば、「自分は愛されて育った」という記憶が形成される。それは子どもの自己肯定感にも大きく影響するんです。
――青木さんの体験談もこのことを裏付けています。
青木さん:子どもが不登校だった時期、親子関係は険悪でした。でも、その時期の写真を見返すと、不思議と笑顔の写真ばかり。写真を撮るのは心に余裕がある時だからかもしれません。今では「大変だったけど、いい時間もあったよね」と、写真を通して記憶が少し上書きされている気がします。
根本:写真を撮ろうと思った瞬間に、すでにストーリーが始まっているんです。何気ない一枚の写真の中に、家族の物語が詰まっているんですよね。

――こうした写真を通じた記憶の再構築や、ポジティブな体験の共有は、子どもの成長における『非認知能力』の向上につながる可能性は非常に高いと城戸先生は指摘します。
城戸先生:写真共有の効果に関する直接的な研究はまだありませんが、『非認知能力』の重要性は指摘されています。これは好奇心や誠実さ、共感性、自己肯定感、コミュニケーション能力などが挙げられ、学校のテストでは測れない能力—想像力や本質を見抜く力を指します。
この能力は通常の学校教育だけでは育成が難しく、日々の様々な活動を通じて培われていきます。その能力を伸ばす過程に、写真を通じた家族との体験が確実にかかわっているはずです。
【写真が紡ぐ、かけがえのない家族の時間】
【写真が紡ぐ、かけがえのない家族の時間】
――今回の座談会で見えてきたのは、写真には思い出を残す以上の価値があるということ。写真を撮り、整理し、家族で見返す。その一連の行為が、実は子どもの心の成長や家族の絆を深める大切な役割を果たしているのです。

重要なキーワードを改めてご紹介します。
・物語性:写真整理による意味づけの重要性
・時間の共有:家族での写真鑑賞時間の価値
・手間の意味:あえて残すべき作業の存在
・愛情機能:家族の絆を深める写真の役割
・記憶の再構築:ポジティブな思い出の形成
根本:「頑張らなくてもできること」を大切にしたいと思っています。忙しい中で、気軽に写真を入れて見返すだけのサイクル。その中で自然と生まれる家族のコミュニケーション。それだけでも「おもいでばこ」には十分な価値があるはずです。これからも、お客様の写真ライフをより豊かにする新しい機能や使い方を追求していきたいと思います。
――写真を見返すという小さな習慣が、実は家族の大切な時間を作り出している。そんな新しい発見に満ちた座談会となりました。
