【後編】新「おもいでばこ」の楽曲に秘めた想いー作曲家LAVA氏インタビュー

2022年5月に新しく発売される「おもいでばこ」のために、新たに4つの楽曲を、作曲家、DJ/サウンドプロデューサーである、LAVAさんに制作いただきました。

それらの楽曲それぞれに込められた思いや制作時のエピソードを、実際にLAVAさんにインタビュー。
ある時は天からのギフトのように、またある時は一音一音じっくり。LAVAさんの楽曲制作にかける情熱を感じました。

前編はこちら

このシーンにもし音階があったら、僕の場合はこのメロディだった

―― それぞれの楽曲に込めた想いをお聞きしていきたいと思います。今回は4つの新曲を制作されていますが、その中でもLAVAさんが特にお気に入りの曲はどれでしょうか?また、どのようなシーンを思い浮かべて書かれたかなど、お聞かせいただけますか?

LAVAさん) う~ん、あえて言うなら「Unrequited Love」ですね。これには「報われない恋」という訳を付けていますが、僕が古い男だからかもしれないですけれど、前のガールフレンドの写真とかがふと出てくると、「ドキッ」とするじゃないですか。で、「どうしてるかなー」とか考えたりして。まったく余計なお世話なんですが(笑)。そういうシーンを勝手に想像して作った曲です、実は。

この曲はひとりで、まさにここでギターを弾いていた時に「降りてきた」曲なんです。もう、「ギフト」としか言いようがないですね。自分の人生の中で誰しも「美しい時間」ってあったと思うんです。だからそれを思い返す時間というイメージで、何か曲が作れないかなって思っていて。その時にぽろんとこのメロディが降りてきました。

―― 生演奏で聞くといっそう素晴らしいですね。

LAVAさん) こんな感じでどんどん出てくるんです。まるで「こういう音楽で、そういうものを表現しなさい」って言われているような感じで。

僕はこの曲で、「もし失恋に音階があったら」って考えていたんです。失恋した時の傷ついた気持ちが音楽になったらどういうメロディーになるのかなって。もちろんそれに「答え」というものはないんですけれど、僕の場合はワルツの音楽だったんです。そしてたまたまこの「ギフト」がやってきたんです。切なさの中にある次に踏み出す一歩というか。

―― 確かに、「報われない」というタイトルなのに、どこかに明るさがあって、後押しされている感じがします。

LAVAさん) そう。少し技術的な話になりますがこの曲は少しテンポを速くしました。普通に歩くテンポよりもちょっと速足くらいのテンポにしてあげると「前向き」な印象になるんです。

―― この曲の制作にあたって苦労された点はありますか?

LAVAさん) 苦労したというか、とにかく時間だけはいっぱいあったのでまずはドラムのトラックをかなり細かくエディットして全て打ち込みで作りました。生音のオーディオ音源を1拍ずつ編集して。ドラムトラックの制作だけで丸々3日はかかりましたね。僕は結構そういうことを平気でやります。
そこにウッドベースとピアノをスタジオで録音しました。ウッドベースのソロパートも全部譜面に起こしてレコーディングしたのが、かなりユニークでしたね。ジャズなのに自由さがないというか。

―― 「キャンプファイヤー」も今回の新曲のひとつですが、なぜ、「キャンプファイヤー」というタイトルにされたのでしょうか。曲に込めた想いをお聞かせいただけますか?

LAVAさん) 僕が思う「キャンプファイヤー」って、「さあこれからキャンプファイヤーやるぞ!」って感じじゃなくって、これもどちらかと言えば、「報われない系のキャンプファイヤー」なんです(笑)。キャンプファイヤーの場所にいて、近くに好きな子がいるんだけれど、でもちょっと話しかけられない。「火の粉はこんなに空にのぼって豪快で、みんなも楽しそうで、でも私だけこんな気持ちで…」みたいなものを表現してみました。だから最後のコード進行も少し僕なりの切なさを残している感じなんです。

仲間と集まっている時間はすごく尊いし、もちろん楽しい。でもそんな時に、夜空に上がる火の粉を見てどんな気持ちになるのかなあ、火の粉に音楽が付いていたらどんなメロディになるのかなあと思って。自分の中での青春のワンシーンに音階を付けてみた感じです。

―― 同じく今回の新曲、「ブックエンドからの手紙」についてお聞かせください。

LAVAさん) これなんかはまさに「映画音楽」ですね。シーンとしては、机で仕事をしているひとりの男性がいて、彼が書棚から1冊の本を手にとった時にぽろんと何かが落ちてきた。それが過去の恋人からもらった手紙だった、という設定です。そういう短編みたいなストーリーを勝手に思い浮かべました。そこに音楽を付けたらこうなりました、という曲です。

この曲は登場する楽器がギターだけなんですが、そういう曲が1曲欲しかったんです。いわゆるリズムもない、ベースも入らない、ピアノも入らない、ギターだけで表現する曲を作ろうって思っていて。これも「ギフト」で、わりとすぐできた曲だったと思います。ギターを練習している中で、前からなんとなく手癖でこういうものを弾いていたんでしょうね。

―― では、新曲4曲の残り1曲、「Paisaje Azul」について、曲に込めた想いをお聞かせください。

LAVAさん) これはいちばん最初に作った曲ですが、メロディ自体は、おそらく3年前のスペインでのレコーディング時に作っていたのだと思います。ビルバオという街にいるときにパッと浮かんできたメロディなんですが、制作にあたっては久々の作曲の依頼で盛り上がっていたので、「これはリズムを入れて作ろう」と、様々なワールドミュージックで使われる打楽器をプログラミングしました。バスドラムのパートはジャンベ(アフリカの打楽器)を使ったり、ブラジル音楽で使われる粒の大きなシェーカーを取り入れてみたり、ほかにも世界中の打楽器が色々と入っています。タイトルは「青い風景」という意味ですけれど、エディットの時には実際に昔のスペインの写真とかを見返しながら作りました。

最終的に、「スタイリッシュなワールドミュージック」と言える仕上がりになったと思っています。ひさびさの制作なので、ちょっと燃えちゃいましたね(笑)。まあ、全然そうは聞こえない曲かもしれないですけれど。

―― 軽快なテンポの中に、存在感のあるピアノのメロディが素敵ですね。

LAVAさん) そう。でもメロディはあくまでも淡々とやってもらったんです。ピアニストの方がこの曲を気に入ってくれて、最初のレコーディングの時にすごくオーバーアレンジで弾いてくれたんですけれど、それも全部「却下」しました。
こういう曲って何回も繰り返し聴くわけですよね。そうするとやはりシンプルなプレイがいいんです。何度も聴ける曲って必ずシンプルなんです。

――なるほど。「もう一回聴こう」みたい気持ちになる曲を目指したのでしょうか。

LAVAさん) 今回は「写真が主役」じゃないですか。だから曲が多くを語らないくらいでちょうどいいと思ったんです。映画音楽だってそうですよね。主役を喰ってはいけない。

―― 旧モデルに入っていた「おもいでばこのテーマ」も、今回新しくアレンジしていただきました。

LAVAさん) そうそう、これは根本さんから少しアレンジしてほしいって言われて。正直けっこう「賭けた」曲なんです。

今回はリミックスなのでちょっと過激にやってみたというか、僕の中では「根本さんにダメだと言われるかもしれないけれど、ここまでならギリギリOKかな」みたいな感覚で、ナイトミュージック的なニュアンスを取り入れて作ったんです。ドラムの音がひずんだりブーストしたりしている中で、美しいピアノが入ってくるという。月明かりの下で好きな写真を見るみたいな、ノクターン(夜想曲)のイメージですね。

こういう曲がバリエーションであっても面白いんじゃないかなと思ったんです。それと今回どうしてもトランペットを入れてみたかったんです。前のバージョンはピアノだけだったので。

―― たしかに、トランペットのソロがオシャレですね。

LAVAさん) でしょう?でもトランペットの録音は今の時代らしくリモートで作ったんです。参加してくれたトランぺッターに「自分で録ったものを僕に送ってそれでやりとりしよう」みたいにやったんですけれど、彼が最初からいきなりいいソロを送ってきてくれて。なのでほとんどディレクションをせずに完成しました。

「おもいでばこ」を通して写真を見返せば、家族みんなが映画の主役に

――「おもいでばこ」の曲の制作を終えて、改めていかがですか。

LAVAさん) そうですね、「おもいでばこ」に僕の曲を使ってもらえるって、これは本当にうれしいことです。参加してくれたミュージシャンたちも勇気が出ると思います。

―― 「おもいでばこ」ユーザーの方々に向けて、メッセージをお願いします!

LAVAさん) おうちに帰って、「ああ、今日も疲れたなー」って一息ついて、「なんか音楽でも聴こうかな」「ちょっと映画でも観てみようかな」くらいの感覚で、「ちょっと写真を見ようかな」って、「おもいでばこ」を開いてもらえたらいいのかなと思っています。映画音楽のつもりでこの音楽を作ったので、自分たちの写真見て、映画の主人公になった気分で浸ってもらえれば、それが一番僕にとってはうれしいです。
自分が主役の映画なんてなかなかないじゃないですか。でも、「おもいでばこ」ならそれができるんです。写真で自分が表現されるオンリーワンのドラマです。

いま、子どもたちの間でも、写真がすごく身近になっていますよね。スマホで撮った写真を見たり、SNSで友達の日常の写真をチェックしたりしている子ってすごく多いです。そういう世の中で、「おもいでばこ」って、言ってみれば「写真を見るための究極の道具」だと思うんです。自分がスマホなどで撮ったものを大きな画面のテレビで見て、そして好きな時間にそれを楽しめるわけですよね。そんな素敵なアイテムに音楽を付ける仕事ができたのは、僕にとっても非常に光栄な話でした。

――「おもいでばこ」での写真体験は、自分だけじゃなくて、他の家族の写真もまとめてスライドショーになるので、「家族のコラボレーション作品」みたいになると思います。そうすると、家族に会話も生まれるし、絆も強くなるといった、そういうメリットもあるのではないかと考えています。

LAVAさん) 今日は新曲の話ばかりをしましたが、それ以外にも既存の曲も入っていて、明るいシーンから少ししんみりしたシーンまで、様々なシーンに合うようになっていますから、お父さんもお母さんも子どもたちも、おじいちゃんおばあちゃんも、みんなで楽しんでもらえたらいいなと思っています。
作曲中は僕がイメージしたシーンがありますが、音楽は人に触れ、聞いてもらって初めて生命を宿すものだと思っています。その人それぞれでどんなシーンに合うかは、みなさんに選んでいただけたらなと思います。
これらの音楽を生み出した親として、たくさんの方に聞いてもらえたら何より僕はうれしいです。

今回制作いただいた曲のダイジェストをこちらでお聴きいただけます。>https://youtu.be/-xzTqsqCthI

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